はじめに
この記事は株式会社ナレッジコミュニケーションが運営する
チャットボット と AIエージェント Advent Calendar 2025
の5日目にあたる記事になります!
Azure Resiliency Agent と AWS Security Agent が示す、クラウド運用の次フェーズ
クラウド運用の現場では、レジリエンス設計やセキュリティ検証に、これまで膨大な工数がかかっていました。
ですが、Microsoft Ignite 2025 で発表された Azure Resiliency Agent と、AWS re:Invent 2025 で発表された AWS Security Agent によって、そういった「守りの運用」が AIエージェントにオフロードできる段階 に入りつつあります。
特にこの2つは、クラウド運用を「人手による属人的な作業」から、「AI駆動の自律運用」にシフトさせるポテンシャルを持ったサービスとして注目すべき存在になっています。
1. クラウドAIエージェント戦略の全体像と提供ステータス
Azure と AWS は、それぞれ強みの異なる領域から AI エージェントを投入し、インフラ運用における次の2つの課題を解消しようとしています。
- 属人的な運用
- 手動作業に依存したレビュー・検証
現時点での主要サービスと提供状況をまとめると、以下のようになります。
| サービス名 | 提供者 | 主要な役割 | 提供ステータス | リージョン |
|---|---|---|---|---|
| Azure Copilot Resiliency Agent | Azure | レジリエンス設計の自動診断、是正スクリプト実行、DR 演習の自動シミュレーション | 限定的なプレビュー (Gated Preview) | 公開情報なし(通常、主要リージョンから開始) |
| Resiliency in Azure (統合ポータル) | Azure | HA/DR/バックアップを一元管理するレジリエンス統合ポータル | パブリックプレビュー (Public Preview) | 公開情報なし |
| AWS Security Agent | AWS | 設計レビュー自動化、コードセキュリティレビュー、オンデマンドなペンテスト | プレビュー (Preview) | US East (N. Virginia) リージョンのみ |
1.1 現時点で押さえておきたいポイント
現時点の状況をざっくり整理すると、以下のようになります。
-
まだ GA(一般提供)はゼロ
- コアとなる AI エージェント機能はいずれも GA には到達していません。
- 設定変更やセキュリティテストなど、システムに直接影響するため、ベンダー側が慎重に検証を進めている段階と考えられます。
-
リージョンは限定的
- AWS Security Agent は、いまのところ US East (N. Virginia) のみでプレビュー提供されています。
- 日本リージョンを含め、他リージョン展開はこれから、という状況です。
-
Azure は統合基盤が先に出てきている
- Azure 側では、エージェントの受け皿となる「Resiliency in Azure」という統合ポータルが、先行してパブリックプレビューになっています。
- まずは「管理のハブ」を出し、その上に AI エージェントを載せていく構図が見えてきています。
2. AIエージェントがもたらすクラウド運用の変化
これらの AI エージェントが狙っているのは、クラウド運用のスタイルを
- 障害が起きてから対応する リアクティブ
から - 障害を予測し、事前に備える プロアクティブ
へと転換していくことです。
Azure と AWS は、それぞれ「レジリエンス」と「セキュリティ」にフォーカスしながら、この変化を押し進めようとしています。
2.1 レジリエンスの進化(Azure側のフォーカス)
Azure Resiliency Agent が目指しているのは、システムの回復性や冗長構成を 設計段階から AI がチェックし、維持し続ける状態 をつくることです。
ポイントは次の2つです。
-
設計品質の標準化
- これまで熟練エンジニアのレビューに依存していたレジリエンス設計を、AI が自動診断します。
- 推奨事項や是正スクリプトを提示することで、組織全体で 一定以上のレジリエンス品質を揃える ことが狙いです。
-
DR検証の工数削減
- 「障害シナリオの自動シミュレーション」により、従来は数日単位で行っていた DR 演習の工数を限りなくゼロに近づけていく方向です。
- これにより、継続的に回復性を証明(アテステーション)できる状態 を目指しています。
2.2 セキュリティの進化(AWS側のフォーカス)
一方で AWS Security Agent は、セキュリティを「開発スピードのブレーキ」から解放することを狙っています。
こちらのポイントも2つです。
-
コンテキストを理解したセキュリティレビュー
- 従来の SAST/DAST は、コード単体やリクエスト単位のチェックにとどまることが多くありました。
- AWS Security Agent は、設計書やコード全体からアプリケーションの文脈を理解し、より高精度な脆弱性特定を目指しています。
- その結果として、誤検知(False Positive)の削減 も期待されています。
-
オンデマンドのペネトレーションテスト
- 人手で行うペンテストは、時間もコストもかかるうえ、タイミングも限定されがちです。
- AI がオンデマンドでペンテストを実行できるようになることで、リリースサイクルとセキュリティ評価の間にあった タイムラグ を埋めていく方向です。
3. AWS担当者が今この動向を追うべき理由
ここまで見ると、「Azure の話だし、うち AWS だし」と思われるかもしれません。
ですが、AWS を主戦場にしている方ほど、この潮流を追っておく価値が高い と考えています。その理由は次の3つです。
3.1 自社運用のベンチマークとして使える
Azure 側が DR/HA 自動化の「ゴールイメージ」を打ち出したことで、次のような問いが立てやすくなっています。
- 自社の AWS 環境で、どこまで自動化できているのか
- そのためにどれだけの開発・運用コストを払っているのか
- 市場の最先端と比べて、どのあたりに位置しているのか
つまり、Azure の取り組みを ベンチマーク として、自社環境を客観的に評価しやすくなってきています。
3.2 インフラエンジニアのスキルセットが変わっていく
AI エージェントが「実行」と「検証」の大部分を担うようになると、インフラエンジニアの役割は次のように変わっていきます。
- エージェントに任せる範囲を設計する
- ポリシーやガバナンスを定義する
- 複数のエージェントをまたいだ運用モデルをデザインする
つまり、「手を動かす人」から「AIを使って運用モデルを組み立てる人」へとシフトしていく流れです。
その意味でも、Azure/AWS 両方の AI エージェントがどこまでをカバーしようとしているのかを把握しておくことは、これから投資すべきスキル領域を見極める材料 になります。
3.3 クラウド選定・提案の前提が変わる
AI エージェントが GA に至ったタイミングで、クラウドプラットフォーム間の差は「料金表」では見えないところで開いていきます。
具体的には、次のような観点です。
- どちらのクラウドのほうが、運用ガバナンスを少ない工数で実現できるか
- どちらのクラウドのほうが、セキュリティ・レジリエンスを担保しながら開発スピードを出しやすいか
インフラ担当者がこのあたりの差分を理解しておくことで、社内の DX 推進部門や開発チームに対して、より踏み込んだクラウド選定の提案 ができるようになっていきます。
まとめ:AIエージェントは「運用の作り方」そのものを変えていく
AI エージェントの動きは、単なる新サービスのニュースではなく、クラウド運用モデルの設計そのものをアップデートするトリガー になりつつあります。
今後、特にウォッチしておきたいポイントは次のとおりです。
- 各エージェント機能の GA タイミング
- 対応リージョンの拡大(特に日本リージョン)
- カバー範囲の拡大(対象サービスやユースケース)
これらのアップデートを追いながら、
- 既存の運用自動化との重なり・置き換え
- 必要となるスキルと体制
- 自社のクラウド戦略への影響
といった観点で定期的に見直していくことが、今後のクラウド運用における重要なテーマになっていくと考えています。
