はじめに
6月25・26日に開催されたAWS Summit Japan 2025に参加してきました!
今年は全国から4万人を超える参加者が集まり、会場は大盛況。AWSの最新ソリューションや導入事例を肌で感じられました!
初めて参加しましたが、多種多様な業界のセッション、思いも寄らない業界と最新技術のコラボレーション、実際に最先端の技術を体験出来る企業ブースが多数あり、毎年参加したいと思いました。
その中で、今回は1日目に行われましたサントリーホールディングス株式会社様の市場変化に対応するサントリーグループの基幹システム改革 〜SaaS・クラウドネイティブ・AWSマネージドサービス活用の最前線〜のセッションレポートを執筆いたします!
(本記事はセッション内容をもとに筆者が独自にまとめたものであり、公式見解ではありません。)
概要(案内文より)
登壇者
- サントリーホールディングス株式会社 デジタル本部 情報システム部 部長 齋藤 陽 氏
- サントリーホールディングス株式会社 デジタル本部 情報システム部 石橋 浩平 氏
サントリーグループでは、急速な市場の変化に対応するため、これまでのスクラッチ開発による基幹システムの開発標準の方針を大幅に見直しました。今後は、SaaSサービスの導入やクラウドネイティブサービスの活用を促進し、AWSのマネージドサービスを活用した柔軟性と拡張性に優れたシステムアーキテクチャ構成を目指しています。この講演では、これらの取り組みについて具体的な事例を交えて紹介します。
目次
- サントリーグループのIT変革の背景
- オンラインアプリケーションのクラウドネイティブ化
- バッチ処理のオンライン化とAWS活用
- データ活用基盤の刷新とAPI化
- 今後のチャレンジと展望
- まとめ
1.サントリーグループのIT変革の背景
サントリーグループではこれまで基幹システムをスクラッチ開発し、オンプレミス環境で運用してきました。しかし、近年の市場変化のスピードや多様化するビジネス要件に迅速に対応するため、IT基盤の柔軟性・拡張性が求められるようになりました。
そこで、SaaSサービスやAWSのマネージドサービスを積極的に活用し、クラウドネイティブなアーキテクチャへ移行する方針に転換。これによって、開発・運用コストの最適化と変化に強いシステム基盤の構築を目指しています。
2.オンラインアプリケーションのクラウドネイティブ化
SPA+API+コンテナ構成への移行
従来のモノリシックなWebアプリケーションから、Single Page Application(SPA)+API+コンテナ というクラウドネイティブな構成へと刷新を進めています。使用しているアーキテクチャは下記になります。
- フロントエンド:SPA(ReactやVue.jsなど)
- APIサーバ:AWS Lambda → コンテナ(ECS/Fargate等)へ移行
- データベース:Amazon Aurora
- キャッシュ:ElastiCache(Redis等)
技術的なポイント
- Lambdaのコールドスタートによるレスポンス遅延問題をコンテナ化で解消
- APIレスポンス高速化のため、Auroraの前段にキャッシュ(ElastiCache)を導入
- さらに高速な応答が必要なアプリは、内部ルーティング最適化でAPI応答をより高速に
3.バッチ処理のオンライン化とAWS活用
従来の課題
- 夜間バッチ処理の負荷
- システム間連携の遅延が原因でシステム全体の遅延・トラブルを誘発していた
AWS活用による変革
- 夜間バッチ処理の廃止・オンライン化を推進
- オンライン化が難しい処理は、Amazon SQSによる非同期化で対応
- 残ったバッチ処理はAWS Step Functionsでジョブフローを構築
- 複雑なスケジューリング(例:第3営業日実行)はAWS Systems Managerカレンダーと連携
- 先行・後続処理の制御はAmazon EventBridge+Amazon CloudWatchで実現
- さらに複雑なフローはApache Airflowの標準化を推進
4.データ活用基盤の刷新とAPI化
レガシーDB(Oracle EE)からOSS化へ
- 数十年運用してきたOracle EEは高コスト・高チューニング依存
- CDC(Change Data Capture)ツール導入時にDB負荷増大・レスポンス遅延の課題
- OSS DB(Aurora等)への移行+API化で柔軟なリソース拡張・データ連携を目指す
API化の推進
- 数百個の共通コンポーネントをAPI化し、疎結合化を行う
- 各業務アプリを段階的に新DBへ移行可能な構成へ
- API開発・テストの自動化・AI活用にも着手
データレプリケーション・データレイク
- ドメイン間のデータ参照はNG → データコピー運用で運用負荷増大
- データ統合ツール導入で運用工数削減・データ収集の加速
- Amazon S3+Iceberg形式で横断的なデータ共有・データ鮮度向上を目指す
5.今後のチャレンジと展望
- API開発・テストの自動化:AI活用で工数削減・品質向上
- データレイクのオープン化:S3+Icebergでデータ活用の民主化の推進
- 新技術の積極導入:生成AI(Amazon Bedrock等)や最新AWSサービスの活用
- コミュニティとの情報交換:他社事例・ノウハウの積極的な取り込み
6.まとめ
サントリーグループの基幹システム改革は、クラウドネイティブ化・API化・データ活用基盤の刷新という3本柱で進行中です。AWSのマネージドサービスを最大限活用し、変化に強い柔軟なIT基盤を構築する取り組みは、同様の課題を抱える大企業にとって大いに参考になると考えられます。
私事ですが、一消費者として、山崎蒸溜所に足を運ぶほどサントリーのウイスキーのファンである私にとって、今回ご紹介した技術が実際にウイスキーの品質向上に貢献していることを知ることができ、大変有意義な体験となりました。普段何気なく楽しんでいるウイスキーの裏側には、こうした先進的な技術や工夫が支えていることを改めて実感しました。今後も、ものづくりの現場でどのような技術が活用されているのか注目しながら、より深くウイスキーを味わっていきたいと考えています!